かわいいとおいしい

そのために生きている

報われない足

昔から言っていることだが、衣食住の『衣』への興味が極端に低い。これは昔から母が買ってくる服と趣味が合わなかったとかまぁいろいろ自分でも思いつく理由はあるのだけど、とにかく『衣』を能動的に行うことが少ない人生だった。

 

とはいえ好きな服の系統というものはあるし、似合う服の系統は何なのか、はたまたTPOなんてものにどう立ち向かえばいいのか、実家を出てからの7年でだいぶ進歩したのではないかと考えている。そんな私の最大の敵が、靴だ。

 

思えば靴なんて相場の値段もわからず、実家にいる頃は母がハマった健康靴とやたら相性がいいのをいいことにそればかり履き、なんなら実家を出てからも実家に帰るたびに「そろそろ靴がね〜」なんて言いながら自分では到底手の出せない値段の靴を買ってもらっていた情けない娘である。しかしこの健康靴が非常には着心地が良い。ただし、見た目はそれなりにそれなりの代物だ。それでもそれ以外の靴を履けない(この頃は履いたことがなかっただけ)の私に社会の波は冷たく、「お前は仕事はできるのに服装が幼すぎる」と言われる始末。そんなことで損などしてたまるものかと重い腰をあげ、オフィスカジュアル、ビジネスライクな靴を探し、購入したのであるが、これがまた酷かった。かかとは痛いし爪先は擦れるし筋肉痛にもなる。世の女性はこんな目にあって靴を履かないといけないのか?と思い悩んだ。要するに私の足は過酷な靴に耐えられるほど鍛えられていないのである。結局私は人目を忍んで健康靴に戻るしかなかった。これ以外の靴を履けない(この頃は履いた上で判断できるようになっている)私は、それからも定期的に訪れる「年相応にまともな靴を履かなきゃ……」の波と戦いながら、3年のOL生活を生き抜いていた。

 

そんなときに少し状況が変わる。たまたま訪れたしまむらで買った2,000円そこらの靴が、妙に良かったのだ。かかとも脱げない、擦れることもない、しかも安い。どうしてこんなクオリティのものが今までネットでも話題にならなかったのか?と感動しながらしまむらの靴を履いて二週間後。私は見たことのない足の裏の擦り傷と戦う羽目になる。そうか、これが『安かろう悪かろう』というやつだなと、私はそっとしまむらの靴をシューズボックスの奥にしまった。薄い靴底をカバーするために入れていた中敷に足のにおいが染み着いていた。私はいつになったら素敵なOLになれるのだろう。

 

その後も『痛くない パンプス』で検索した店に行っては靴を購入するものの、ことごとく失敗ばかりしてしまう私は、ついにある日の夜、夫と帰宅途中に脱げたパンプスを見ながらやり場のない怒りを彼にぶつけた。「もう靴なんか履くくらいなら家の外に出たくないくらい追い詰められている」結婚して一年、夫もさぞ困惑したであろう。彼は感情的になっている私の言葉を紐解いて、私の代わりにインターネットで靴のブランドを探してくれた。

 

私はなかなか自分に合う靴に巡り会えなかったわけだが、どういう靴が自分に合うのかは何となくわかっていた。まずローヒール。指先をしっかりホールドし、さらにベルドがあること。このベルドが曲者で、女性靴にローヒールのベルト付きという靴はあまり存在しない。そもそもベルト付き自体があまり美しく見えないからか数が極端に少ないのだ。私は夫に自分は馬鹿ではないのでベルト付きが良いことが分かっているがどうしても見つけられないのだと訴えた。しかし彼はインターネット販売もしていて実店舗もあるブランドを数点ピックアップしてくれたのである。インターネット販売もしているということはどんな靴があるのか見ることができ、実店舗で試着して買えば良い。なんてスマートな検索術なのか。私たちはさっそく次の週末にその店舗に向かった。

 

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そうして購入した靴。凶器かと思うほど尖ったパンプス界でここまで大胆に本来の足の形に寄せ、ベルトがあり、スニーカーのような靴底で非常に歩きやすい。事務職の私からすれば普段はこの程度でちょうど良い。私は本当に嬉しくて「ストレスがない!本当にない!ずっと歩ける!」と喜んでいる。夫は「誰が見つけてきたと思っているんだ」と誇らしげだ。苦節7年、私の足はようやく報われたのだ。持つべきものは優しい夫と靴である。これで、どこに行くのも気分が良い。